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ゼロ・プロセス

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 今年の乳幼児精神保健学会FOUR WINDSは沖縄の那覇市で開催されました。テーマはトラウマ。沖縄というと青い海に白い砂浜というイメージで一見トラウマとは縁遠く思われるかも知れませんが、沖縄は先の太平洋戦争で日本で唯一地上戦の行われた場所です。その戦争によって生まれたトラウマは世代間伝達し、今も沖縄の人々の心の中に残っています。もちろん若い人達は戦争を体験したわけではなく、その生の記憶はありませんが、親の心の中のトラウマを子どもは感じて、形を変えて若い人達の心の中に伝わっているのです。戦争のトラウマが完全に消えるには数世代という時間が必要でしょう。

 さて、タイトルのゼロ・プロセスは今回招聘されたカナダのフェルナンド先生が提唱された概念です。難しいのですが、簡単に言えばトラウマのゼロ・プロセス記憶は過去のものとして処理されず、今も生き続けるということでしょうか。つまりゼロ・プロセス記憶の残る人は今現在の世界とトラウマ世界の二つの世界を同時に生きていることになります。PTSDのメインの症状であるフラッシュバックのメカニズムかしらと思いました。

 沖縄に着いた日の夜、焼け落ちた首里城に行ってみました。暗い中、黄色い立ち入り禁止テープの向こうに警備員さんが立っていました。それでも守礼門だけはライトアップさてれいました。今回の学会で行くつもりだったのですが残念です。早く再建されることを祈っています。


追記:
 実は大会テーマは「童(わらび)どぅ宝〜社会で支える親子の成長〜」でした。
その隠れたテーマが残されたトラウマとどう立ち向かうかなのだと理解しました。
子どもは社会の宝です。
社会が子どもを育ちを見守り、子育てを支援する必要があります。

抗菌剤の適正使用

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 先の土曜日、クリニックを休診にして、新潟で開催された北海道・東北連合小児科医会に参加してきました。その会での特別講演は新潟のS先生でした。テーマは抗菌剤の適正使用。風邪に抗菌剤はむしろ有害で腸内細菌叢に影響を及ぼし、将来のアレルギー、大腸癌、過敏性腸症候群、肥満など様々な病態のリスクが高くなる。不要の抗菌剤の使用は耐性菌を増やすと。その話しは別の学会でも聞いていましたから、「最近、多くの小児科医は抗菌剤の適正使用を心掛けるようになった。しかし子ども達は風邪症状でまず他科を受診することも多い。そこで多くの不要の抗菌剤が処方されている現実がある。それに対してどのような対策を取られていますか?」と質問してみました。するとS先生は「そのことはどの先生も感じていることでしょう。自分は機会があるごとに他科の先生達に向けても講演している」と返答されました。
 そういえば最近市内のA耳鼻科の処方が変わってきた気がするのはそのお陰でしょうか。小児科だけでなく、各科の医者が抗菌剤の適正使用を心掛け、耐性菌を増やさないようにしないと、近い将来、細菌感染症はまた人類の脅威になる可能性があります。癌で亡くなるよりも細菌感染症で亡くなる人の方が増える時代が来るのではないかと危惧されているそうです。

 写真は新潟で見かけた黒い新幹線!
調べたらこの新幹線は外見だけでなく、車内も多くのアートを楽しむことが出来て、子どもがプラレールで遊べる車両もあるようですよ。ただ走っているのは新潟と越後湯沢の往復だけだそうで、ちょっと残念でした。

登場人物になる

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 先の連休に広島で開催された小児心身医学会に参加してきました。実は学会そのものには期待しておらず、昨年の豪雨で被災した広島の友人に会うのが目的でした。しかし期待していなかった学会は大変有意義なものでした。以前よりも親子の関係性への注目が深くなり、また多くの新しい情報もありました。
 今日のタイトルはその学会での広島の児童精神科医M先生の特別講演でのフレーズです。「子どもと関わると言うことは、その子の人生の登場人物になるということである」。それは力動精神医学の講演でした。ご自分の人生に精神医学の歩みを重ねての話しでしたが、静かな語り口の裏に激しい情動、厚い情熱を感じさせる素晴らしい感動的な講演でした。

 我々は日々子ども達と接しています。例え関わりが一瞬であったとしても、我々は彼らの人生の登場人物なのです。脇役かも知れませんが、往々にして脇役が大きな物語の重要な登場人物だったりします。子どもと関わる我々はそれを心得て関わる必要があるのですよね。

 実りの秋、台風が近づいています。大きな影響のないことを願っています。

マタニティ・ベビーフェスのご紹介

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 9月23日秋分の日、弘前に乳幼児精神保健学会FOUR WINDS会長の渡辺久子先生をお迎えし、ヒロロの文化交流館ホールにて講演会が開催されます。午前の部は一般向けで講演タイトルは「赤ちゃんバンザイ」、午後は子どもと関わる分野の専門職対象の講演でタイトルは「乳幼児精神保健の基礎と臨床」です。

 弘前市はヒロロに「子育て支援包括支援センター」を作りました。母子手帳の発行から様々子育て支援に関わる様々な事業を全て一カ所に集めたのです。その包括支援センターが秋分の日にマタニティ・ベビーフェスを企画したのです。そしてそのフェスで講演会を企画し、渡辺先生を招聘したいと僕に依頼がありました。丁度、我々FOUR WINDS青森でも渡辺先生を呼んで勉強会を開催するつもりでしたから、それは渡りに船と弘前市に協力することにしました。そして渡辺先生の方からの提案で「折角弘前に行くのだからスタッフ向けの講演もやりましょう」との申し出を有り難くお受けし、1日に二つ、講演して貰うことになりました。渡辺先生に講演のタイトルを伺ったところ、「それは先生が決めてください。タイトルに合わせたお話をします」と言われてしまいました。それならばと自分の思いも込めたタイトルを考えました。

 そんな訳で9月23日、僕が尊敬する渡辺久子先生の講演会があります。是非、多くの方にお越しくださいますようお願いいたします。

幼児肥満ガイド

 小児科学会誌の7月号で今日のタイトルの要旨が載っていました。成人の肥満が様々な健康被害をもたらすことが知られ、メタボなどという言葉が流行し、今でも健診で身長体重だけでなく腹囲もチェックされているのは皆さまもよくご存じとの通りです。最近は学童でも肥満や痩せを健診で割り出し、通知を出すようになりました。しかしその学童の肥満の始まりは幼児期にあり、幼児期からの肥満予防対策が望まれています。

 幼児の肥満に影響する因子は遺伝的な要因と環境要因がありますが、妊婦さんの肥満だけでなく逆に痩せも子どもが肥満になりやすい遺伝子のスイッチを入れてしまうようです。生まれてからの環境因子は
1)親の肥満
2)睡眠時間が10時間以下であること
3)座ってテレビを見るなど身体を動かさない時間が2時間以上あること
4)果糖を含むジュースや清涼飲料水をよく飲むこと
とありました。

そして乳児期は生活習慣を身につける時期であるため、幼児期からの肥満予防対策や肥満をそれ以上に増悪させないための指導は極めて重要であるとありました。

 肥満も予防接種と同じで、肥満になってからの指導よりも肥満にならないための指導が大切と言うことでしょう。弘前では1歳半の内科健診が個別健診になりました。1歳半健診は子どもの発達を見るのにとても大切な健診ですが、発育のバランスも注目して見て行きたいと考えています。
明日から直ぐにでも (^_-)-☆

病気が治るのに2つの大切なこと

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 敬愛する澤田敬先生が厚生労働大臣賞を受賞されました。土曜日、その祝賀会で東京に行っていました。受賞講演はいつものように朴訥で心に響く講演でした。これまで澤田敬先生は高知で虐待防止のNPO法人「カンガルーの会」を立ち上げ活動されています。先生は虐待はそれを早期に発見するのではなく、虐待が起こらないように予防するべきでそのためには親子の関係性を修復する必要があると言います。それには虐待してしまう親自身の生い立ちからみて行く必要があります。先生は世の中の虐待防止対策はうわべだけのシステム論で物事の本質を観ていないといつも嘆いておられました。
 先生は虐待する親御さんにいつも優しく接しています。どうしてそんなに優しくなれるのか、今回の講演で「それは自分自身の生い立ちにあるのではないか」とお話しになっていました。敬先生のお母様はとても厳しい方で悪いことをすると土蔵に閉じ込め鍵を掛けられたと言っていました。そのガチャンという音がトラウマになっていると。しかし敬先生のお母様はおそらく愛情深い方だったのでしょう。敬先生はそれを虐待とは感じなかったのだと思います。ただそんなお母様でしたから、虐待する母親を見ると自分の母親とダブって見えてしまうのではないかと言っていました。
僕はまだお母さんの態度に苛ついてしまうことがあります。まだまだ敬先生の足下にも及びません。
写真は敬先生に花束を贈呈する赤平です。赤平もまた敬先生を敬愛しています。

 ところでその会場で乳幼児精神保健学会FOUR WINDSの幹事の一人が僕に小学校2年生の息子の話をしてくれました。
微熱で学校を休ませた時、そこ子が話したそうです。
「お母さん、僕、病気が治るのに大事なことが2つあると思うんだ」
「何と何?」
「一つはね、寝ること」
「そうね、ゆっくり休むことは大切よね。もう一つは?」
「それはね、安心すること。僕、お母さんと一緒にいると安心して病気が早く治るような気がするんだ」

その話を聞いて、思わず胸が熱くなりました。
正しくその通りです。
ただ残念なことですが、今はその2つを叶えてあげるのが難しい世の中なのかも知れません。
でもその大切な2つを忘れたくないですよね。

第2回特別支援医教連携セミナー IN 弘前

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 今週の土曜日、青森県武道館で第2回特別支援医教連携セミナー IN 弘前が開催されます。これは以前(昨年の3月)にもこのブログで紹介したセミナーの第2回目になります。昨年は健生病院の加村先生に小児科の講演をお願いしました。今年は誰にしようか迷って、候補は何人かいたのですが、やはり一度は自分が話そうと決めました。
講演のタイトルは「子どもの行動の意味を考える」
 実は昨年の暮れに青森県教育相談研究会から依頼されて講演したのですが、その時のものを少しだけ手直ししてお話しすることにしました。先の研究会は2時間の長い講演でしたが、今回は40分のショートバージョンです。

「全ての事象には意味がある」と考えています。咳の意味、発熱の意味。子どもが泣く意味、泣かない意味。同じように大人にとって子どもの困った行動にもそれなりの意味理由があります。その理解と共感なくして子どもの行動を変えることはできないと思っています。

 昨年は80名を超える参加者がありましたが、今年はまだ60名を少し越えるだけのようです。まだ席に余裕があります。もしご興味のある方はどうぞご参加ください。

申込先:TOSS東北中央事務 黒滝誠人 kurotaki77mktあyahoo.co.jp
上のアドレスの「あ」を「@」に変えて
件名:医教弘前 申込み 
内容 1.氏名 2.メールアドレスまたは電話番号 3.住所 4.勤務先
を添えてお申し込みください。
 

『ない』ことの証明

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 今年のノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学の本庶佑先生がノーベル賞受決定後の初公演で、子宮頸がんワクチン問題について取り上げ、現在の「日本は国際的に見ても恥ずかしい状況」とコメントしたそうです。「科学では『ない』ということは証明できない。『ある』ものが証明できないことはない。『証明できない』ということは科学的に見れば、子宮頸がんワクチンが危険だとは言えないという意味だ」と述べ、「なぜこれを報道しないのか」「ルワンダなど(リソースの少ない国)でもワクチンを導入して子宮頸がんが減っている」「このことに関してマスコミの責任は大きいと思う」と述べられたそうです。
 先生は厚労大臣を訪問し、子宮頸がんワクチンの積極的接種再開の要請を行ったそうで、以前から医療経済やQOLの観点からワクチンを初めとする予防医療の重要性を繰り返し訴えていたと医学系のネットニュースに出ていました。現在の日本の状況を憂いておられるのでしょう。

 世界中で子宮頸がんが減少している中、日本だけが増加しているそうです。もし仮に神経症状のように見える副反応が子宮頸がんワクチンが原因だったとしても、その発生率は極めて低く、子宮頸がんに罹患するリスクとは比較にならないものです。自分の娘には接種しましたし、当院のスタッフも皆、自分の娘に接種しています。感情的なワクチン忌避論に左右されることなく、自分の判断で接種していただくことを願っています。

そう言えば、満員電車で痴漢と間違われ、無実を晴らすのに大変な思いをした話がテレビで出ていました。これも似たようなものでしょう。外来診療でも同じです。『ない』ことの証明はとても困難なのです。

 写真は二の丸辰巳櫓です。冬の弘前公園も良いですね。
やっぱりスマホのカメラは画質がいまいちですね。カメラを持って行けば良かった。
(^_^;

吃音のこと

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 吃音、どもりのことです。
青森県かかりつけ医等発達障害対応力向上研修会、なんとも長い名前の研修会ですが、その研修会が日曜日に青森でありました。国の指示で発達障害の子ども達への対応を一般のかかりつけ医でも出来るようになることを目的として企画されたもののようです。今回2回目となるその研修会で吃音が取り上げられました。今、国では吃音や発達性協調運動障害(とっても運動が苦手な子)を発達障害の一つとして扱おうということになったそうです。
 実は僕自身に吃音があり、子どもの頃ことばの教室に通いましたし、高校の頃、辛い思いをした記憶もあります。今ではそれほど目立たなくなりましたが、完全には治っていません。講演で実際の吃音のフィルムが上映されると、それに同調してまた自分の吃音が悪くなるのではないかと胸が苦しくなりました。
そうか、自分も発達障害か・・・(^_^; 。

 時々、吃音の相談を受けます。以前、吃音に有効な治療はないと学びましたが、若しかすると何か有効な方法があるのかもと期待して講演を聴いていました。2人で一緒に文章を読むとどもらないとか、メトロノームに合わせた文章朗読でどもらない、など興味ある情報はありましたが、結局の所、やはり有効な治療法はないようです。ただ、軽快はしても、ほとんどそのまま一生治らないと覚えていたのですが、男児の6割、女児で8割の子が3年で自然回復するとありました。しかし小学校2年生ではっきり吃音のある子は思春期までは続くそうです。
 吃音は急激な言語発達の副産物とありました。けっして親の躾や環境の問題が原因ではありません。しかし自分の経験では心的ストレスが発症の引き金になることはあると考えています。吃音のある人は大脳の右半球の過活動があるそうですが、それはちょっと急激な言語発達とは合わない気もします。まあ原因や病態については今でも良く分かっていないのでしょうね。

 さて、治らなかった場合ですが、一番の問題は周囲の無理解です。周りからふざけるなと非難されたり、馬鹿にされたり、言い直しを無理強いさせたり・・・。それが元ででますます精神的な緊張を強いられ吃音が酷くなり、挙げ句の果てに人前で何も話せなくなったりします。吃音の対応で大切なことは、周囲がどもってもいいんだよと穏やかに聞いてあげることです。

 社会の自閉症などの発達障害に対する理解は少しずつ進んでいます。国が吃音を発達障害の一つとして対応するように求めた理由の一つは、吃音に対する社会の理解を促すことが目的でしょう。
もし貴方の周りに吃音の子がいたら、温かい目で見守ってあげてくださいね。

写真は2週間前に撮った弘前公園の紅葉です。もう紅葉も終わりですね。

インフルエンザワクチンの有効性

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 当院では3歳以上でこれまでに2回以上しっかりとインフルエンザワクチンを接種してある子は1回でいいよとお話ししています。しかし他の医療機関では小学生までは2回接種としている所が多く、不安に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。厚労相の方針もそうなっており、添付文書にもそう書いてあります。

 先週の土曜日、つがる小児科医の会の学術講演会がありました。講師は大阪医市立大学公衆衛生学の教授のF先生です。まだ若い女性の教授でしたが、理路整然と分かり易く、とても面白い勉強になる講演でした。講演のテーマはインフルエンザワクチンの有効性についての疫学、統計学的な評価。皆さんも興味ありますよね。インフルエンザワクチンを接種していても罹ることはよくある訳で、本当に有効なの?と疑問に思われても仕方ありません。今日はその講演から。

 ある研究でインフルエンザワクチンの有効率を約25%と算出したのだそうです。しかしF先生がその研究の妥当性を再評価したところ、それは低すぎる、バイアス(偏り)が掛かっているとの結論で、出来るだけバイアスを排除した別の手法(Test-negative design)を用いて6歳未満児のインフルエンザワクチンの有効性を検討したところ、年によって差はありますが40〜60%だったそうです。その値は臨床的な印象とも合うように思います。そしてワクチンの1回接種の有効性の検討では過去に2回以上接種してあれば、2回接種と同等の効果とありました。
 これまで当院では、血液検査の抗体獲得の報告を参考に1回接種を勧めていましたが、疫学的な調査からも1回接種で充分なようで、講演を聴きながらほっと胸をなで下ろしました。ただ残念だったのは、ワクチンで脳症などの重症合併症の予防効果について質問したところ、その検討の国内での報告はないのではないかとのことでした。市内のS先生は2回接種してあっても脳症を合併した例を経験したと言っていました。インフルエンザの接種濃霧に関わらず合併症に対する注意は必要のようです。


 ところでインフルエンザワクチンの有効性60%とは100人にワクチンを接種すれば60人で効くという値ではありません。これはインフルエンザを発症した人のワクチン接種者と非接種者と相対評価で、ワクチンをやらずに発病した人のうち60%は接種していれば発症しなかったという値です。ちょっと分かりにくいですよね。
 もともとインフルエンザは何度か罹患するうちに免疫ができます。その免疫でワクチンをやらなくても罹らずに済む子も多いのですから、ますますワクチンの有効性を評価するのが困難になります

 少し残念なワクチンですが、まあ有効率50%前後ということで納得するしかないのでしょう。

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