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子どもの村

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 親が亡くなったり、虐待などいろいろな理由により家族と暮らせなくなる子ども達がいます。昔(太平洋戦争直後)は戦災孤児が中心でしたが、最近は虐待や放任などで親から離される子が増えてきています。その子達は児童福祉法で社会がその責任をもって保護、養育することが定められています。諸外国では里親制度が普及しており、里親に委託される児童の割合はオーストラリアで93%、欧米では50〜70%台。お隣の韓国でも43%もあるそうです。それに比べ日本では12%にしか過ぎません。残りの子ども達の行き先は乳児院や児童養護施設がほとんど。子ども達を心身ともに健全に育てるためには家庭的な環境が良いことは明らかで、国も里親制度の推進を図っているようですが、それはなかなか進んでいないのが現状のようです。
 2010年4月、福岡に「子どもの村」という施設ができました。村の中のそれぞれの家には里親(子どもの村で育親と呼ぶそうです)と数名の子ども達が生活します。それを周りの小児科医、臨床心理士、保健師、ケースワーカーがサポートするそうです。そして今、宮城でも子どもの村が作られようとしています。これは震災で親を亡くした子ども達のためでもあるのでしょう。

 虐待を受けた子ども達のケアは大きな施設での集団養護では不適切です。家庭的な養護が必要なのです。子どもの心研修会で講演してくれた先生は、ご自身も里親になって何人かの子ども達を育てたそうです。さて振り返って、我が家でも身寄りのない子を引き取ることができるか。自分ではそうしたい気持ちはありますが、毎日帰りの遅い自分を考えると、奥さんの負担だけが増えることは明らかで、自分が里親になるのは難しいでしょう。サポートしてあげること位しかできない自分が残念です。

ほめるテクニック

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 「子どもの心」研修会。毎年、前期と後期の年2回開催される研修会ですが、その講師陣が毎回素晴らしく、できるだけ出席するようにしていました。今年はエジンバラへ行ったこともあり、土曜日を休診にしなければならない前期は欠席しましたが、先の連休で後期の研修会に行ってきました。今回も素晴らしい講演がいくつもあり勉強になりました。その中からいくつか紹介してゆきますね。

 まずは臨床心理士のA先生の講演から。子どもはほめて育てろと言いますが、なぜ叱って育てるのでは駄目なのか。それは叱ると確かに行動は変容しますが、その変化は一時的なものなのです。それを継続的なものにするために、ほめることが必要なのです。さて、叱る、ほめるにもテクニックが大切です。
そのほめるテクニックとは?
①3Sを使う
・さすが
・すごいね
・すばらしい
②さりげなく
③スパイスを効かせて
 もちろんその子の年齢にあったほめ方があります。幼児にはストレートにほめた方が良いかもしれません。でも小学生も高学年になると、かえって「馬鹿にして」と思われてしまうこともあるでしょう。さりげなく、ぼそっと、でも本人に聞こえるように「・・・すごいね。」

 では、叱りのテクニックは?
①「短く、強く、行為」を叱る
②効果的な叱りの文脈を作る
・どこを見て
・どのような姿勢で
・どのように 叱るか
③叱りの3段階
レジメにはそうありますが時間が足りず、講演では説明していただけませんでした。講演は笑いもあって、大変おもしろいものでした。講師の先生のプロフィールを見ると常磐大学の准教授、そして弘前大学の非常勤講師とあり驚きました。すぐ近くにこんな先生がいたのですね。今度、講演会を企画しようかしら。

 写真右はスコットランド版忠犬ハチ公。主人が死んだ後、その墓の隣に10年以上も座っていたそうです。

MRI体験ツアー

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 プレパレーション、近頃、小児医療界ではよく聞く言葉です。このブログでも何度か取り上げました。プレパレーションpreparationとはprepare準備するの名詞です。つまり検査や注射などの医療行為による子どもの不安や恐怖を出来るだけ減らすために、心のケアを行い、環境を整え、準備することです。日曜日、スタッフ二人と仙台で開催された東北外来小児科学研究会に参加してきました。その会の教育講演のテーマがプレパレーションでした。講師は聖路加国際病院の小児看護専門看護師Hさん。当院でも子どもの不安、苦痛を軽減するために様々な工夫を凝らしていますが、更にいろいろとヒントをもらってきました。

 彼女の講演で一番面白かったのが、MRI体験ツアー。MRIとはあの頭や内蔵の断面の画像を撮る大きな装置です。経験した人は分かると思いますが、狭い筒の中に入って、撮影に30分程も掛かります。そしてガーン、ガーンと撮影中のものすごい音! 小さな子どもを検査する時には大抵の場合、お薬で寝かせて撮影します。しかし聖路加病院では“MRI体験ツアー”なるものがあるそうです。このツアーのおかげでスムーズにMRIの検査ができるようになったとか。ツアーに参加した子ども達には3つのミッションが与えられます。まずミッション1:検査室を見学しよう。実際にどんな部屋か、中に入って見学します。ミッション2:音に慣れよう。実際の大きな音を聞いてそれに慣れ、その中で気をつけの姿勢を取る。ミッション3:検査台に乗ってみよう。実際にMRIのベッドに寝て固定してもらう。全てのミッションをクリアするると子どもは宝箱の鍵をもらえ、宝箱を開けて中の宝をゲットできる。
このツアーを2、3回体験すると3、4歳の子どもでも眠らせずに起きたまま検査できるのだそうです。

 Hさんは講演の中で“いやなこと”を好きにさせることはなかなかできません。ですが、「いやだけど・・・やってみよう!」と子どもが思えるようにすること、嫌なことを一生懸命頑張った自分を「わたし(ぼく)って、すごいな!」と思えるようにすることはできますと話されていました。病院での辛い体験を成功体験へと変え、自尊感情へとつなげられると良いですね。そのためには医療機関だけでなく、お父さん、お母さん、あるいはおじいちゃんおばあちゃんの協力も大切です。誉めてもらって一番嬉しいのはやはりお父さんお母さんなのですから。

写真左は土曜市のトマト売り。これカボチャじゃなく、全部トマトです。

世界乳幼児精神保健学会 in エジンバラ

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 2年に1度の世界乳幼児精神保健学会。第14回大会の今年はイギリス、スコットランドの首都エジンバラで開催されました。僕にとっては初めて参加する国際学会でしたが、学会だけでなく歴史のあるスコットランドの文化や風景にも興味がありました。エジンバラは街全体が世界遺産に登録されており、その名に違わず、中世の街並がそのまま残る石畳の美しい街でした。第一印象はディズニーランド?でも本物はこっちです。火山活動で出来たという街を見下ろす岩山の上にあるエジンバラ城は決して美しいとはいえず、しかし無骨で、正に実戦向きの要塞でした。朝早く、あるいは聴講に疲れた頭を休めるため、街を散歩するのは気持ちよかったです。というか歩き回っている時間の方が長かったかも。街中にある国立博物館はとても大きく、子ども達でも興味を引くようにディスプレイを工夫してあり、一回りするのにゆうに3時間はかかりました。驚いたのは入場料無料!写真撮影もOK!日本ではありえません。

 さて、肝心の学会は日本からもたくさんの参加者があり、和気あいあいとしつつも熱気を帯びたあつい学会でした。会場全体が暖かな雰囲気に包まれていたのはやはり皆が親子の心の問題に関わっているからでしょうか。今回の学会の一番の成果は沢山の人と知り合えたことでしょう。日本から来た方には来年自分が主催するFOUR WINDS弘前大会の宣伝がてら名刺を配りまくったのでした。

写真はエジンバラ城とエジンバラのオールド・タウン。なんだか観光写真みたいだなあ。でもまあよく分かるので・・・。

食物アレルギーの正しい食事指導とは

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 盛岡で開催された今年の東北小児喘息アレルギー研究会、特別講演は食物アレルギーの治療で著明なあいち小児医療センターのI先生でした。講演のタイトルは「食物アレルギーの食事指導と社会的対応」
 食物アレルギーの治療の要点をひと言で言うと「正しい診断に基づく、必要最小限の除去」につきます。これはどの本にも書いてあることです。しかしそれがなかなか難しい。世の中にはいい加減な診断と、思い込みでの過剰な食物除去がはびこっています。その原因は不安と不勉強とでしょう。しかしそう言う僕自身も誤った診断と過剰な指導をしているかも知れません。

I先生は講演で食物アレルギーの食事指導のポイントは
① 不必要な制限をしない
② 必要なときは確実に除去する
③ 食べられるものを見つける
④ 食べられる範囲で積極的に食べる
と話しておられました。
こう羅列すると一見簡単なように思えますが、実はそんなに簡単なことではありません。しかしその方法論も確実に進歩しています。自分がこれまでやってきた食事指導も根本から見直す必要がありそうです。

 今回の研究会にはスタッフも4人参加しました。日進月歩。常に勉強して遅れないようにしなくてはとスタッフと話し合っていました。

 写真は森田村の菜の花畑。5年前に撮った写真です。この方角からの岩木山は鋭く天を突いています。今年は忙しくて菜の花を見に行けなかったなあ。

価値観の押し売り

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 土曜日、診療を早くに切り上げて向かったのはあおもり母乳の会の講演会でした。あおもり母乳の会は母乳育児の普及と支援を目的として発足された会です。毎年、学習会・講演会が開催されていますが、今年の講演会の講師は聖マリアンナ医科大学小児科の名誉教授、堀内勁先生でした。堀内先生は日本で初めて未熟児医療にカンガルーケアを取り入れた先生です。カンガルーケアとは生まれて直ぐの赤ちゃんを裸で母親のおっぱいを吸わせるケアです。タイトルは「早期の母子コミュニケーション 〜心育ちと母親になること〜」。様々な動画を引用し、赤ちゃんとお母さんの結びつきを分かり易く講演していただきました。1000gに満たない未熟児が生まれて直ぐに母親の乳首を吸う姿は感動的ですらありました。我々男性には決して体験できない母子の世界を垣間見たように思いました。

 今週のタイトルの「価値観の押し売り」はその講演の中の言葉です。「母子間のコミュニケーションと発達は自己調整と相互交流調整が柔軟に行き来することでもたらされる。丁度良い注目、情動、飽きない、過度に興奮し過ぎないことが大切。」マーラーのいうgood enough motherということでしょう。best motherでなくて良いのです。しかし「母子分離、マニュアル的育児、孤立・密室保育、それに加え母子保健関係者の価値観の過度の押し売りは母子間の相互交流調整の障害の一つとなり得る」と教えていただきました。自分が母乳育児を勉強し始めたとき、それを過度に押し付けていたのではないかと反省します。あるいは日頃の診療で知らず知らず価値観の過度の押し売り、押し付けをやってるのではないかと訝しく思います。価値観の押し売りは、本人は良かれと思ってやっているのですから、自分ではなかなか気が付きません。やはり何事に於いても内省すると言うことが大切なのでしょう。

 さて、今週の写真は弘前公園の桜です。去年と違って「もこもこ」の桜でした。公園を管理する人達の努力は並大抵なものではないのでしょうね。でもきっと報われて良かったと思っているじゃないかな。弘前の桜は日本一と誇らしく思えますよね。

ソーシャル・スキル・トレーニング

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 ソーシャル・スキル・トレーニング(SST):認知行動療法の一つですが、自閉症スペクトラムなどの発達障害のある子ども達にとって、今の世の中は生きにくいことばかりです。SSTとはそんな子ども達に世の中を生きる術を学ばせるのですが、大切なことはその子の特性を治すわけではないということです。

 先週21日春分の日、青森市で開催された発達障害者支援フォーラムに参加してきました。基調講演は宇都宮大学の梅永雄二先生。講演のタイトルは「発達障害児の自立をめざした子育て、教育 〜大人になって幸せに生きるために〜」
梅永先生は確か2、3年前にも青森で公演されたことがありました。とても話し上手で、講演の内容も素晴らしかったです。発達障害の子ども達の特性はトレーニングで治るとかそういう類の物ではない。周囲が理解し、その子にあった学習の方法を考える必要がある。SSTのあり方も再検討しなければならない。先生の著書「大人のアスペルガー症候群」の協同著者である佐々木正美先生が梅永先生に電話で、SSTを学ばなければならないのは会社の方であると話されていたそうです。それを聞いて正にその通りだと頷きました。社会全体が彼らを理解し、上手に付き合っていくことが求められているのです。彼らに上手に他人とコミュニケーションを取る術を身に付けろというのは、全盲の方に新聞を読めと言うのと同じこと。感覚や思考回路が違うのを自分等と違うからといって、それを異常と決めつけるのは間違いです。「みんなちがって、みんないい」のです。それぞれの個性を尊重すべきです。ただ、彼らが世の中で生きていくのが大変なように、我々が彼らを理解するのも簡単ではありません。お互いに誤解が生じやすいのです。だから我々も彼らのことを学ぶ必要があるのです。

FOUR WINDS 4つの風

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 このブログでも何回か紹介している乳幼児精神保健学会FOUR WINDS、その名はフィンランドの北部、ラップ・ランド地方の4つのとんがりを持つ帽子、Four winds hatに由来します。ラップ・ランド地方の冬は青森と同じ様に一面雪に覆われ、道も何もかも真っ白の世界。昔、ラップ・ランドの人たちは風を頼りに自分の進むべき道を知りました。このとんがりは東西南北四つの風を表しています。そしてこの帽子をかぶって、安全を願ったのです。
 フィンランドは世界で最も福祉政策が進んだ国です。1996年、そのフィンランドで世界乳幼児精神保健学会が開催されました。その学会に日本から参加したメンバーが意気投合し、「同じ志を抱く仲間が出合い、育ち会う場を持ち合いたい」という願いから、乳幼児精神保健を学ぶ研究会を立ち上げたのだそうです。それが今のFOUR WINDSの始まりです。ラップ・ランドの人達が風を感じ、風を頼りに自分の進むべき道を見いだしたと同じように、赤ちゃんやその親たちが指し示してくれる風を感じ、そしてそれをもとに社会がこれから進むべき方向を見つけ、伝えることで、赤ちゃんやその家族が安心して暮らせる社会を作ることが我々の望みです。(FOUR WINDS学会誌創刊号から)

 そのFOUR WINDSの青森支部会を立ち上げ、FOUR WINDS青森と称し、2月11日建国記念日にヒロロでその第1回目の学習会を開催しました。参加者は保育士や保健師、看護師、心理士、医師など29名。年に3,4回のペースでフィルム学習会や症例検討会を重ねて行きたいと考えています。それが少しでも赤ちゃんとその家族に還元されることを願って。

小児の感冒診療の問題点

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 つがる小児科医の会という団体を3年前に立ち上げ、自分が幹事となって地域の小児科医のレベル向上を目的に年に3、4回の講演会を企画していました。先週の土曜日、大阪から西村先生をお呼びし、「小児の感冒診療の問題点、プライマリ・ケアを考え直そう」というタイトルの講演を行っていただきました。彼は僕より一回り年下の若い小児科医ですが、学会でも積極的に発言し、オピニオン・リーダー的な存在です。
 さて、その風邪の診療の講演ですが、風邪に抗生剤は無効、むしろアレルギーを増やすなど有害・・・(これはもう当たり前)。咳止めは反って風邪の治りを悪くする・・・(なるほどなるほど)。ペリアクチンなどの抗ヒスタミン剤は眠気などの副作用があるばかりで反って有害・・・(大賛成)。気管支炎では咳をして痰を出すとき気管支を収縮させる必要があるので気管支拡張剤は有害・・・(そういう考え方もありかも)。
 西村先生は小児科医のMLで風邪薬撲滅運動を推進しています。基本的に風邪は安静にしているだけで治る。我々小児科医のなすべき事は風邪に薬を出すことではない。安静にしていれば治ると教えることだと講演していました。そしてその姿勢を全ての小児科医が共有することだと。

 先日、あるお父さんに言われました。「先生の出す薬は弱い薬ですか」と。「そうではありません。必要のない薬を出さないだけです」と返しましたが、さて、理解していただけたでしょうか。「薬をたくさん出した方が満足するのかなぁ」とちょっと残念でした。

写真は秋の南八甲田、黄瀬沼です。

5歳児発達健診

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 1月の広報弘前に出たそうですが、弘前市は今年から5歳児発達健診をスタートさせます。その説明会が先週の木曜日にありました。3歳児健診でも自閉症などの発達障害の発見に力が注がれますが、所謂軽度発達障害など言葉の発達の遅れのない子ども達は見逃されることも少なくありません。そして学校に入ってから、様々な苦労を抱えてしまうことがあります。5歳児発達健診はそれを補う目的で始まった健診で、県内ではつがる市と八戸市で既に行われており、全国でも少しずつ広まってきています。
 詳しい健診の実施要綱はここでは避けますが、僕も以前5歳児健診を提案したこともありました。しかし他の先生から発達障害を診断した後の受け皿が整わない現段階では5歳児健診を行うのは時期尚早との意見があり、誰も現実的なものとして考えていませんでした。それが今回、一気にことが進んだのはおそらく市長の強い意志と、大学精神科の意図とが合致したからでしょう。実は昨年、弘前大学では全国の大学精神科の中で始めて児童精神科医が教授になったのです。いずれにせよこのように新しい物事を始めるにはトップダウンでないと実現に時間が掛かるのかも知れません。
 大学精神科の教授は将来1歳半、3歳児健診で早期発見できるシステムを作り、早期療育に繋げたいと仰っていました。早期診断と早期療育。それが可能ならそれは確かに素晴らしいことかも知れません。しかしそこは慎重に行かないと落とし穴があるような気がしてなりません。発達障害と診断してしまうことでその子の全ての行動をそれと結びつけ、その子の本当の心を見逃すことになりはしないか。市はカウンセリングを行う臨床心理士の増員を考えていると話していましたが、発達障害の子ども達への対応は難しいです。安易な増員はうわべだけの対応に終わってしまう危険性があります。
 発達障害と診断、あるいはそれと疑われただけでご家族は大きな不安を抱えるでしょう。くれぐれも泥縄にならないようにと市にお願いしました。