当院では3歳以上でこれまでに2回以上しっかりとインフルエンザワクチンを接種してある子は1回でいいよとお話ししています。しかし他の医療機関では小学生までは2回接種としている所が多く、不安に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。厚労相の方針もそうなっており、添付文書にもそう書いてあります。
先週の土曜日、つがる小児科医の会の学術講演会がありました。講師は大阪医市立大学公衆衛生学の教授のF先生です。まだ若い女性の教授でしたが、理路整然と分かり易く、とても面白い勉強になる講演でした。講演のテーマはインフルエンザワクチンの有効性についての疫学、統計学的な評価。皆さんも興味ありますよね。インフルエンザワクチンを接種していても罹ることはよくある訳で、本当に有効なの?と疑問に思われても仕方ありません。今日はその講演から。
ある研究でインフルエンザワクチンの有効率を約25%と算出したのだそうです。しかしF先生がその研究の妥当性を再評価したところ、それは低すぎる、バイアス(偏り)が掛かっているとの結論で、出来るだけバイアスを排除した別の手法(Test-negative design)を用いて6歳未満児のインフルエンザワクチンの有効性を検討したところ、年によって差はありますが40?60%だったそうです。その値は臨床的な印象とも合うように思います。そしてワクチンの1回接種の有効性の検討では過去に2回以上接種してあれば、2回接種と同等の効果とありました。
これまで当院では、血液検査の抗体獲得の報告を参考に1回接種を勧めていましたが、疫学的な調査からも1回接種で充分なようで、講演を聴きながらほっと胸をなで下ろしました。ただ残念だったのは、ワクチンで脳症などの重症合併症の予防効果について質問したところ、その検討の国内での報告はないのではないかとのことでした。市内のS先生は2回接種してあっても脳症を合併した例を経験したと言っていました。インフルエンザの接種濃霧に関わらず合併症に対する注意は必要のようです。
ところでインフルエンザワクチンの有効性60%とは100人にワクチンを接種すれば60人で効くという値ではありません。これはインフルエンザを発症した人のワクチン接種者と非接種者と相対評価で、ワクチンをやらずに発病した人のうち60%は接種していれば発症しなかったという値です。ちょっと分かりにくいですよね。
もともとインフルエンザは何度か罹患するうちに免疫ができます。その免疫でワクチンをやらなくても罹らずに済む子も多いのですから、ますますワクチンの有効性を評価するのが困難になります
少し残念なワクチンですが、まあ有効率50%前後ということで納得するしかないのでしょう。